スクリャービン《ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 作品20》聴き比べ

概説

アレクサンデル・ニコライエヴィッチ・スクリャービン(Alexander Nikolayevich Scriabin、1872-1915、ロシア)はラフマニノフより1歳年長で、音楽学校では同級生。友人でありライバル。ともにピアノの名手として知られていたが、ラフマニノフが2メートル近い巨漢で手も大きかったのに対し、スクリャービンはむしろ小柄なほうだった。そのためピアノの練習のしすぎで右手を痛め、一時期左手だけの曲を作曲していた。
スクリャービンとラフマニノフは、音楽家として出発した時点では同じような所に立ち同じような方向を向いていたが、ラフマニノフがその路線を守り続けたのに対し、スクリャービンは誇大妄想とも言える前衛的な作風にどんどん傾いていく。最終的に彼は、ドビュッシー、シェーンベルクとほぼ同時に、しかし別個に調性放棄に(正確に言えばその寸前に)たどり着く。ところが唇にできた腫れ物が原因の敗血病のために、スクリャービンは自分の音楽を突き詰めることなく急死する。後継者となる作曲家も現れず、非常に孤立した存在だったと言える。
余談だが、スクリャービンが死んだとき、ラフマニノフはオール・スクリャービン・プログラムを組んで彼を追悼した。しかしその演奏がスクリャービン信奉者の不評を買ったため、その場にいたプロコフィエフがラフマニノフをフォローした。ところが、ラフマニノフは「当然だ、私はいつだってうまく弾く」というようなことを言ったので、両者の仲は険悪になったそうだ(作風からして、そりがあわないのは容易に想像できるが…)。
《ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調》は、生涯に10曲のピアノソナタを始めとする多くのピアノ曲を作曲したほかには、それほど多くない(ただし重要な)管弦楽曲しか書かなかったスクリャービンが、習作の《ピアノと管弦楽のための幻想曲》をのぞいて、唯一残したピアノと管弦楽のための作品。いまだラフマニノフと同じ所にいた頃の作品であり、ラフマニノフのピアノ協奏曲を彷彿とさせる内容を持っている。ピアノの名手だったスクリャービンらしく技巧的には極めて難しい。第1楽章が非常に短いのは特徴的*。当時の傾向からすると、15分くらいあるのが普通。一言で言って「聴いていて気恥ずかしくなるほど乙女ちっく」な曲。
最近演奏頻度が上がってきた気がしないでもない。

初演: 1897年10月23日(11日?)。ワシリー・サファノフ指揮、作曲者自身の独奏による。オデッサにて。

* 余談だが、この楽章の第2主題については、CDの解説によってホルンのメロディだとかピアノ・ソロで提示されるだとかまるで違うことを言っている。また、この楽章はマズルカでもあると言っている解説者もいて、これはけっこうあたっているかも。

編成

独奏ピアノ、ピッコロ1、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トロンボーン2、ティンパニ、弦5部。

構成

第1楽章 アレグロ 嬰ヘ短調 3/4拍子
第2楽章 アンダンテ(主題と変奏) 嬰ヘ長調 4/4拍子
第3楽章 アレグロ・モデラート 嬰ヘ短調―嬰ヘ長調 3/4拍子

録音

録音の種類はそれほど多くなく、容易に入手できるのはさらに限られている。個人的なリファレンス盤はウゴルスキ/ブーレーズ/シカゴSO。アシュケナージ/マゼール/ロンドンPOもおすすめ。おそらく後者のほうが安く手に入る(中古なら特に)。
注意しなければいけないのは、何故か楽譜が2種類あるらしく*、ウゴルスキ、アシュケナージ(これを楽譜Aとする)と微妙に違う演奏(楽譜B)の録音がけっこうある。そんな中で、この2つ以外にはコストパフォーマンス的にARTE NOVAのセヴィドフ/クリメッツ/ロシアPOがウゴルスキに勝るとも劣らない(580円で入手できる)。NAXOSはいまいち。下の表はだいたいにおいて聴いた順。

* 手もとにあるのはEdition Eulenburg No.1287(ポケット判)だが、ARTE NOVAのライナーノートにはState Music Publishers, Moscow 1963を使ったと書かれている。

レーベル・型番ピアノ指揮オーケストラ演奏時間収録時期楽譜併録
(スクリャービンの曲は作曲者名省略)
寸評
(再生環境が劣悪なので鵜呑みにしないように)
NAXOS 8.550818Konstantin ScherbakovIgor GolovschinMoscow Symphony Orchestra07:56 08:45 11:111996/6/Bプロメテウス、前奏曲 Op.11-6, 10, 15, 17、Fragilite Op.51-1、葬送行進曲(ピアノソナタ No.1から)(ピアノ曲は全て管弦楽編曲版)録音のせいか音が暗い。ピアノは結構独特かも。
Deutsche Grammophon POCG-10164アナトール・ウゴルスキピエール・ブーレズシカゴ交響楽団07:41 08:38 10:491996/12/A法悦の詩、プロメテウスこれが個人的基準。ただし第3楽章の最後の音がやたらにあっさり消えるのは玉にきず。
LONDON F28L-28076ヴラディーミル・アシュケナージロリン・マゼールロンドン・フィルハーモニー管弦楽団07:41 08:30 11:201971/4/Aプロメテウスウゴルスキと甲乙つけがたいが、テンポとオーケストラの音のつけかたは結構違う。特にテンポに関しては「速っ」と感じることが多いので、全体的な演奏時間を考えると遅いところは遅めに速いところは速めの演奏らしい。アシュケナージ指揮盤と間違えないように。同一レーベルなのでなおさら間違いやすい。
Chandos CHAN 9728Viktoria PostnikovaGennady RozhdestvenskyResidentie Orchestra The Hague08:22 10:02 12:221998/5/25-7Aプロメテウス、ピアノと管弦楽のための幻想曲(指揮者による編曲)地味ではないが静かめで落ちついた演奏。可もなく不可でもなし。ピアノはやや辛いか?
LONDON POCL-1718ペーテル・ヤブロンスキーヴラディーミル・アシュケナージベルリン・ドイツ交響楽団07:49 08:22 11:281995/9/27-9A交響曲 No.2アシュケナージ指揮盤なので、独奏盤と間違えないように。ただでさえかなり地味な曲なのに、演奏まで地味。オーケストラはもうちょっと明るくしてほしかった。
LE CHANT DU MOND LDC 288010Alexei GolovineVladimir Ponkine"Maly" Moscow Symphoic Orchestra07:21 08:35 10:521990/11/Aラフマニノフ パガニーニの主題による狂詩曲
N.チェレプニン ピアノ協奏曲 嬰ハ短調
かなり変わった趣向のCD(併禄のこと)。チェレプニン(息子のアレクサンデルと間違えないように)は単一楽章22分。スクリャービンは、ピアノ(オーケストラも含めて?)の音程が少し高い? 高音が耳につく所があった。
TRITON DMCC-26001エレーナ・クズネツォーヴァイワン・シュピーレルロシア国立交響楽団08:25 09:54 12:371995/4/B神聖劇序夜 第1部ライナーノートがちょっと手抜き。ピアニストの腕が怪しい。ただ、無理なことはしていないという印象。弦楽器の音はもっと大きいほうが好み。
都響第526回定期演奏会Aシリーズ(おまけ)清水和音ガブリエル・フムーラ東京都交響楽団28分くらい2001/3/24Aヴァインベルク モルダヴィアの主題による狂詩曲 Op.47-1
ドヴォルザーク 交響曲 No.9
これはもちろんライブ。ライブでの善し悪しの計りかたがいまいちわからないので、評価はしない。ミスはあったが致し方ないだろうし。清水和音って女性だと思っていたくらいだし。後のドヴォルザークのせいか、管楽器のお姉さんが頑張っていた印象がある。ヴァインベルクはバルトークとかシマノフスキみたいな土俗的な曲、としかもう覚えていない。
VOX ALLEGRETTO ACD 8170Michael PontiHans DrewanzHamburg Symphony Orchestra06:57 07:29 10:121969 or 1970A法悦の詩、プロメテウス超B級ピアニスト(失礼)、ポンティの演奏。速い。が、ピアニストはともかく、オーケストラが心許ない時がある。というか管楽器の音色が好きになれない。
BMG Melodiya 74321 66980 2Alexei NasedkinEvgeny SvetlanovUSSR Symphony Orchestra07:22 08:38 10:501990A/B折衷?交響曲 No.2, 3、法悦の詩2枚組なので注意。ピアノがオケに負けている感じ。スヴェトラーノフのファンが買うべき。
boheme CDBMR 908087Genrikh NeigauzNikolay GolovanovThe Great Symphony Orchestra of the All-Union Radio and Central TV06:49 08:02 10:081946B管弦楽のための前奏曲「夢」、プロメテウス当然モノラル。音質も劣悪。伝説的な名ピアニストによる演奏だが、左手?のアクセントのつけかたとか、ちょっと気になる。かなり速いのも特徴。
ARTE NOVA 74321 54457 2Arkady SevidovKonstantin KrimetsRussian Philharmonic Orchestra08:01 08:31 11:441996/7/15-7Bピアノソナタ No.1、左手のための2つの小品 Op.9、幻想曲 Op.28ウゴルスキにかなりそっくり。多少ウゴルスキより腕力がないのかというところも。第3楽章は丁寧に弾いているという印象。演奏も明るい。
上記以外に、知る限り英hyperion、スウェーデンBIS、英Collins、EMI、Russian School、Supraphon、Dante、不明のレーベルx2と9種類の録音がまだある。hyperionはチャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番と併禄、BISはスウェーデンのレーベル故、北欧のオーケストラの演奏、EMIはソロモン独奏、Danteはコンドラシン指揮なのがそれぞれ特徴。そのうち入手したい。

リンク

Alexander Scriabin
ピアノと管弦楽のための作品
disc-s-t
スクリャービンの芸風
コンチェルト
http://www3.justnet.ne.jp/~nisk/osusume/classic/scriabin/concert.htm
http://www3.alpha-net.ne.jp/users/sergiu/classic/d_review/20000419.html
スクリャービン Pコン
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